SUPPOSE DESIGN OFFICE (以下、サポーズ)の建築や設計において欠かすことのできない「鉄」という素材。構造体として裏方の存在であった「鉄」を建具や階段、照明やテーブルなど、空間のエレメントとして意匠的に扱い他に類を見ない建築を生むことができた背景には、KAMO CRAFTの村田進さんの存在がある。
春に猫屋町ビルヂングで開催するKAMO CRAFTの展示を前に、20年来の付き合いである吉田愛が村田進さんとものづくりについて話します。対談の場は、村田さんが最近手に入れたというお気に入りのキャンピングカー。
村田進さん(以下、村田さん)
最初のサポーズの仕事は幟町にある美容院でしたよね。鉄でミラーを作ったり、壁全面に鉄板を貼ったり。
吉田愛(以下、吉田)
加茂クラフトさんと出会った20年くらい前は、私たちも駆け出しでまだ若かったし、とにかく誰もやっていないことをやりたいという気持ちがすごくあって。世の中にないものを作りたいと必死だった私たちにとって、村田さんは何でも作れる頼りになる人でした。
村田さん
ちょうどMAZDAの下請けの仕事がなくなった頃で。依頼があったら何でもやってみようと思っていた時だったんですよね。愛ちゃん(吉田)と話していると、文化が似てるというか、かっこいいと思うものが同じような感覚がありましたね。元々建築は好きだったし、少しはインテリアに関わる仕事もしていたけど、誰かに教わったわけではなくて。だから実はサポーズから依頼をもらう度に本当はびびっていたんですけどね、仕事が欲しいから断らなかった(笑)。
吉田
うちの会社と一緒だ(笑)。やったことのないこともひとまず「できます」って言っちゃうんですよね。
村田さん
そうそう。それで打ち合わせから帰って、1人で「どうしよう〜」って悩む(笑)。
吉田
師匠がいない者同士ということも共通点ですよね。建築もインテリアも独学でスタートしているので知識も経験もなくて、作りたいものはあるけど作り方がわからない。。いつも作り手の人たちに作り方を教えてもらっていました。大工さんや設備屋さん、家具屋さん、建具屋さん、それを全部まとめる工務店さん、最初の頃はいつも同じメンバーで仕事をしていて、その人たちに無茶をいってはダメだしをされながら、図面が真っ黒になるくらいスケッチをかいては消してを繰り返しながら何時間も打ち合わせをしてましたね。村田さんもその1人です。
村田さん
あの頃は大体、現場で実寸で書きながら決めてましたよね。今思えばお互いわからないくせに「まぁできますよー」なんて余裕なふりをしてね(笑)。とにかく検証してチャレンジを繰り返す、そんな日々でした。
吉田
村田さんが素晴らしいのは、検証/チャレンジするという気概があるところと、やっぱりすごく仕事が綺麗だというところ。普通、鉄骨は構造や骨の部分だから、仕上げで覆って基本的には見えないものなんですよね。だから強度を求めるだけの溶接になりがちなんですけど、私たちは「鉄を見せる/鉄で仕上げる」そういう空間を作りたかった。村田さんはそれを理解して、最終的な仕上げになるという概念で綺麗に溶接してくれて。元々器用なのかもしれないですけどね(笑)。
村田さん
見られるものという意識で気は使っていましたよ。でも、鉄が仕上げであるという認識は、サポーズが表に出してきたものだと思う。今はみんな当たり前のように使っているけど、黒皮(※1)なんて昔は仕上げではなかったわけだし。バイブレーション(※2)や亜鉛メッキ(※3)も、「それが仕上げでもいいじゃないですか」と言われた時に、あぁなるほどと思いましたよね。
吉田
例えばテーブルにしても、骨の部分に鉄骨が入っていて天板などの仕上げには突き板が貼ってある、というのが普通なのだけど、鉄のみで出来たテーブルはもうそれだけで構造であり仕上げである。その潔さよさと素材のもつ強さに魅力を感じていました。
もともと建築の一部がインテリアだという考えがあったので、建築とインテリアが別のものという意識がなかった。建築で梁や小屋組といった構造体を美しいインテリアの意匠としてみせる。それと同じような感覚で使える、その境界を跨ぐことができる素材が鉄だった。
村田さん
綺麗に溶接するとか仕上げるということをサポーズが評価してくれたから、あぁここは評価される点なんだということを認識できたのかもしれない。評価してくれるポイントが今までの企業と違ったんですよ。自分たちがやっていることはそんなに価値のあるものなんだって。
吉田
私たちが求めていたのは、早く/安くという点ではないですからね。オリジナルなものを作りたかった。でもそれができたのは、村田さんが元々デザインが好きという前提があったからだと思う。
ありふれた考え方ではなく新しいものを生み出したい私たちが鉄の面白さに着目して、それを村田さんが形にしてくれて、1つのインダストリアルな文化が生まれた。
とにかく安易に“既製品を使いたくない”という反抗心?みたいなものも強かったから、作れるものは何でもそれこそ階段から小さな取手や引き手までデザインして製作する、既製品であってもカスタマイズしてより美しく見えるように!そこへの執念はすごかった。その想いに応えて実現しようとしてくれた村田さんや構造家がいなかったら、サポーズのものづくりの文化は生まれていなかったし、今のような会社にもなっていないんじゃないかな。他にはないものを作ろうと思った時に絶対に必要な人なんです。
村田さん
自分自身も世の中にないものを見てみたいという願望があるから、もしかしたらできるかもしれないと常に思って挑戦できているのかもしれないですね。アウトサイダーだったから、それはダメだよと誰かに止められることもなくて。だから何でもやってみることができた。
吉田
やったことのないこともやってみるという状況を村田さんが作ってくれたから私たちもあれこれ挑戦できたんですよ。巨大な鉄の建具を作ったら1人では到底引けないような重さになったりしたこともあったけど(笑)。
村田さん
やってみないとわからないことって沢山あるよね(笑)。
吉田
20年分の気付きと笑い話は本当に沢山ありますよね。
吉田
2015年には、KT -kata-というプロダクトも一緒に作りましたよね。H形鋼やC形鋼(※4)を切って試験管を差して花器にしたものやC形鋼のペントレーとか。
村田さん
真鍮のメッキをかけて仕上げて、使う人がそれを擦って艶の加減を調整するというプロダクトでしたよね。
吉田
鋼材は意匠的なものではなくてあくまでも構造物に用いるものだからそれ自体に用途はない。けれどその発想を変えて、そこに日常に使える用途を取り入れて。
世の中に流通している規格品と呼ばれる鋼材部材にほんの少し操作を加えることで、日々の生活に寄り添う新たな存在にリデザインしていく。そんなコンセプトでした。
村田さん
本来は裏方であるものに敢えて真鍮のメッキをかけることで鉄の存在感を感じてもらうとか、視点を変えることで生まれる楽しみを感じてもらうとか、自分たちも気付かなかった価値を教えてもらったような気がします。
吉田
鉄工業はとにかく重労働でしんどい仕事だと思うんです。だから職人さんは年々減っていく。これは鉄に限らずあらゆる職方に対してですが、私たちは、知識や技術をもつ職人さんたちへの大きなリスペクトがあるから、そのかっこよさや魅力、ものづくりへの姿勢も含めて世の中に知ってもらうために表舞台に上げたかったんですよね。
村田さん
世の中の流れとしてはみんなできるだけ楽な方に行きたがりますからね。自分の仕事に価値を感じられていない職人さんはまだまだ多いと思います。
吉田
KAMO CRAFTさんと作ることができたものづくりのいい循環を、これからいろんな分野で作っていきたいと思っています。ちゃんと価値を生むことで職人さんが報われる状況。だから、何を価値とするのかを提示していくことも私たちの役目だなと思っています。この春のKAMO CRAFTさんの展示はそのきっかけの展示でもあって。こんな人たちがいるから、私たちはこういうものづくりができてるということを皆さんに知ってもらいたいんですよね。
村田さん
そうなればみんな面白がって仕事ができるようになるかもしれないですね。儲からない仕事ですからね(笑)。
吉田
そこも儲かる仕組みにしないといけないですよね。
村田さん
でもそうなると、挑戦ができなくなるでしょ?
吉田
両方できると思うし、それは両方必要だと思う。挑戦をやめて儲けるのではなくて、挑戦しながら儲ける方法を考えないといけないですよね。人と違うことに挑戦せずみんなと同じものを作っていたら価格競争の波に飲まれてしまう。だから人と違うものを作り続けることは絶対に必要です。儲け方については…ここから先は有料です(笑)。
村田さん
聞きたいですね〜(笑)。ではそれはまたゆっくり。
※1 鉄を高温で成形して温度が下がる際に表面が酸化してできる被膜。
※2 金属の表面に渦模様をつける研磨技術。
※3 主に鉄の表面に施し、鉄の腐食を抑制する工法。
※4 断面がH型やC型の構造物に用いられる鋼材。